全住協リーダーに聞く~協会の課題と指針
流通委員会 神津大介委員長
全住協リーダーに聞く~協会の課題と指針
流通委員会 神津大介委員長
住宅・不動産業界紙2紙による特別企画「全住協リーダーに聞く~協会の課題と指針」より、全住協を構成する全国の主要団体長と主要委員会の委員長のインタビューを随時掲載いたします。今回は、流通委員会の神津大介委員長((株)ジェイ・エス・プラス代表取締役)。市況や運営方針などを聞きました。
―コロナ禍の影響が広がっている
「自社では売買・賃貸、分譲マンションの管理などを主に手掛けているが、実需向けのマンションと戸建住宅の売買取引件数がかなり増えている。年末も12月10日を過ぎれば客足が落ちるのが常だが、昨年は25日を過ぎても新規の契約があった。賃貸管理では、家賃20万~30万円と高価格帯の物件を扱っているためか、住替えや家賃滞納などの動きはなかった。ただこれから特に4月以降は大企業の経営にも影響が出てくる可能性があり、今のような状況が続くかは分からない」
―消費者の目線は具体的にどう変化している
「働く時間や場所、生活様式が多様化し、住宅取得の選択肢が増えた。働き方は大きく変わりつつあるが、オフィスをなくして完全にテレワークに移行するということにはならないと考える。感染が落ち着けば、働き方や選ばれる商品の傾向には揺り戻しも生じるだろう」
―欧米などに比べ日本は感染が抑えられている
「海外の投資家が日本の不動産を好んで買う傾向が強まっていると感じる。欧米の国々の政治経済が悪化する中、インフラが充実し、地政学上のリスクも低い東京の評価が相対的に上がった。実際に昨年後半から海外の機関投資家らによる大型投資が増えていると聞く。日本の経済力は強く、投資先としての魅力を世界に発信する余地がまだある。コロナの感染が一服すれば訪日外国人も戻るだろう」
―流通委員会の活動方針を
「日本の不動産市場は成熟しており、デベロッパー各社が打ち出す商品にも大きな差がない状況だ。高度経済成長期には住環境の改善が課題とされ、その課題に取り組むことが経済成長の原動力になっていたが、既に住環境も生活水準も高まっている。我々供給サイドが次にやるべきことは新たな住まい方の提案だ。コロナ禍で生活様式が変わり、一歩先を見据えた住宅を提案する力が問われている。会員同士で知恵を出し合っていきたい」
―コロナ禍で先の需要を読みにくい状況だ
「生活様式や人気商品の傾向がコロナ前に戻ることはない。ただ東京には人口流入が続き、世帯数も増えている。今は一時的に地方移住者が出始めているが、少なくとも数十年単位では日本経済の中心が東京であることに変わりはない。それを前提として、どのような商品が必要とされているのかを考えていく」
―住宅ローン控除の延長・床面積要件緩和、グリーン住宅ポイント制度創設などの措置が打ち出された
「特に住宅ローン控除は需給双方にとってメリットが大きい。景気後退の影響がこれから出てくると予想される中、経済をいち早く立ち直らせる上でそれらの施策が起爆剤になる。住宅ローン控除等の床面積要件も緩和される予定で、コンパクトマンションの需要喚起が期待される。グリーン住宅ポイントは新築だけでなく中古物件や賃貸住宅にも適用されるため、さらなる投資を促す要素になる」
―2022年に生産緑地の指定が解かれる
「土地の売買や賃貸、開発などを所有者が柔軟に決められるようになる。他方で建築規制が緩和され、生産緑地での農産物の加工・直売施設やレストランなどの運営も容易になり、新たな事業機会が生まれる」
―不動産流通業界でもデジタル化が不可避だ
「不動産業は顧客と対面で話をし、現地を見てもらうのが基本だと考えられてきたが、この1年で双方のウェブ活用が進み状況が変わった。全てがオンラインになるとは思わないが、オンラインと対面のハイブリッドな接客で、大手数社とは別のやり方を模索する必要があり、デジタル化の推進はその大きな柱になる」
―デジタル化には課題も多い
「業界に浸透するには少し時間がかかりそうだ。例えばIT重説一つとっても、従来手法なら当日までに説明書類を仕上げれば済むが、ITの場合2~3日前までに書類を作って郵送しなければならない。現地調査から重説完成までに要する時間が短くなり、事務負担が増すことになる。各社はIT活用の必要性を感じているが、そうした負担増を嫌って二の足を踏んでいるというのが実情だ。現行の手法を簡素化し実効性を持たせられれば、事務作業の合理化につながる。会員らと研究を重ね、国に改善を提言していきたいと考えている」