mainvisual

新たな住生活基本計画(全国計画)について

新たな住生活基本計画(全国計画)について
国土交通省住宅局住宅政策課

1.住生活基本計画の策定
 住生活基本計画は、住生活基本法(平成18年法律第61号)の基本理念にのっとり、住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策を総合的に推進するために、策定されています。
 前回計画の策定(平成28年3月18日)から約5年が経過したことから、社会経済情勢の変化等を踏まえて、今回、新たに令和3年度から令和12年度までの10年間を計画期間として、新たな住生活基本計画を策定しました。
 新計画の策定に当たっては、社会資本整備審議会の住宅宅地分科会において、馬場会長を始め多くの住宅関係業界の方々にご参画いただき、令和元年9月から本年2月までの12回の長きにわたり検討を進め、案を取りまとめることができました。その後、パブリックコメントや都道府県への意見聴取を経て、本年3月19日に新たな住生活基本計画が閣議決定されました。

2.新たな住生活基本計画のポイント
 新たな住生活基本計画では、住生活をめぐる現状と課題を踏まえ、「社会環境の変化」、「居住者・コミュニティ」、「住宅ストック・産業」の3つの視点に基づく8つの政策目標を設定し、今後の施策の基本的な方向性を定めております。

[新たな住生活基本計画(全国計画)の目標]
 ①「社会環境の変化」の視点
  ・目標1 「新たな日常」やDXの進展等に対応した新しい住まい方の実現
  ・目標2  頻発・激甚化する災害新ステージにおける安全な住宅・住宅地の形成と被災者の住まいの確保
 ②「居住者・コミュニティ」の視点
  ・目標3 子供を産み育てやすい住まいの実現
  ・目標4  多様な世代が支え合い、高齢者等が健康で安心して暮らせるコミュニティの形成とまちづくり
  ・目標5 住宅確保要配慮者が安心して暮らせるセーフティネット機能の整備
 ③「住宅ストック・産業」の視点
  ・目標6 脱炭素社会に向けた住宅循環システムの構築と良質な住宅ストックの形成
  ・目標7 空き家の状況に応じた適切な管理・除却・利活用の一体的推進
  ・目標8 居住者の利便性や豊かさを向上させる住生活産業の発展

[計画のポイント①]
 コロナ禍や働き方改革の進展等、昨今の著しい社会環境の変化を踏まえ、「新たな日常」やDX(デジタル・トランスフォーメーション)の進展、自然災害の頻発・激甚化に対応した施策の方向性を記載(目標1、目標2)。
 具体的には、
 ・二地域居住や生活状況に応じた住替え等の住まいの多様化・柔軟化の推進
 ・新技術を活用した、住宅の「契約・取引プロセス」、「生産・管理プロセス」のDXの推進
 ・豪雨災害等のリスクを踏まえた安全な住宅・住宅地の形成や、被災者の住まいの早急な確保等の基本的な施策を盛り込んでいます。

[計画のポイント②]
 政府の目標である2050年カーボンニュートラルの実現に向けた施策の方向性を記載(目標6)。
 具体的には、
 ・長期優良住宅やZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)ストックの拡充、LCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)住宅の普及の推進
 ・住宅の省エネルギー基準の義務付けや、省エネルギー性能表示に関する規制など更なる規制の強化
等の基本的な施策を盛り込んでいます。
 また、子育て世帯の住宅取得の推進、多世代が共生する豊かなコミュニティの形成、住宅セーフティネット機能の整備、既存住宅流通の活性化などの重要施策についても積極的に進めていくこととしています。

3.住宅政策の横断的な展開
 本計画の実現に向けて、関係行政機関が連携し、本計画に基づく施策を総合的かつ計画的に推進することが重要となりますが、今後は、まちづくりや防災、防犯、福祉、環境、エネルギー等の関連施策分野との連携を一層強化するとともに、住教育を推進して住まいの選択に関する情報提供を行うなど、豊かな住生活の実現に向けて施策を推進してまいります。
 本計画の目標を達成するためには、住生活産業を担う民間事業者の皆様の役割が強く期待されるところですが、本計画に基づく今後の住宅政策の推進に当たっては、引き続き、ご理解とご協力を賜りますよう、お願い申し上げます。

<新たな住生活基本計画(全国計画)8つの政策目標>
①「社会環境の変化」の視点
目標1:「新たな日常」やDXの進展等に対応した新しい住まい方の実現
(1) 国民の新たな生活観をかなえる居住の場の多様化及び生活状況に応じて住まいを柔軟に選択できる居住の場の柔軟化の推進
 ○住宅内テレワークスペース等を確保し、職住一体・近接、在宅学習の環境整備、宅配ボックスの設置等による非接触型の環境整備の推進
 ○空き家等の既存住宅活用を重視し、賃貸住宅の提供や物件情報の提供等を進め、地方、郊外、複数地域での居住を推進
 ○住宅性能の確保、紛争処理体制の整備などの既存住宅市場の整備。計画的な修繕や持家の円滑な賃貸化など、子育て世帯等が安心して居住できる賃貸住宅市場の整備

(2) 新技術を活用した住宅の契約・取引プロセスのDX、住宅の生産・管理プロセスのDXの推進
 ○持家・借家を含め、住宅に関する情報収集から物件説明、交渉、契約に至るまでの契約・取引プロセスのDXの推進
 ○AIによる設計支援や試行的なBIMの導入等による生産性の向上等、住宅の設計から建築、維持・管理に至る全段階におけるDXの推進
(成果指標)
 ・DX推進計画を策定し、実行した大手住宅事業者の割合
  0%(R2)→ 100%(R7)

目標2: 頻発・激甚化する災害新ステージにおける安全な住宅・住宅地の形成と被災者の住まいの確保
(1) 安全な住宅・住宅地の形成
 ○ハザードマップの整備・周知等による水災害リスク情報の空白地帯の解消、不動産取引時における災害リスク情報の提供
 ○関係部局の連携を強化し、地域防災計画、立地適正化計画等を踏まえ、・豪雨災害等の危険性の高いエリアでの住宅立地を抑制・災害の危険性等地域の実情に応じて、安全な立地に誘導するとともに、既存住宅の移転を誘導
 ○住宅の耐風性等の向上、住宅・市街地の耐震性の向上
 ○災害時にも居住継続が可能な住宅・住宅地のレジリエンス機能の向上

(2) 災害発生時における被災者の住まいの早急な確保
 ○今ある既存住宅ストックの活用を重視して応急的な住まいを速やかに確保することを基本とし、公営住宅等の一時提供や賃貸型応急住宅の円滑な提供
 ○大規模災害の発生時等、地域に十分な既存住宅ストックが存在しない場合には、建設型応急住宅を迅速に設置し、被災者の応急的な住まいを早急に確保
(成果指標)
 ・地域防災計画等に基づき、ハード・ソフト合わせて住まいの出水対策に取り組む市区町村の割合
 -(R2)→ 5割(R7)

②「居住者・コミュニティ」の視点
目標3:子供を産み育てやすい住まいの実現
(1) 子供を産み育てやすく良質な住宅の確保
 ○住宅の年収倍率の上昇等を踏まえ、時間に追われる若年世帯・子育て世帯の都心居住ニーズもかなえる住宅取得の推進
 ○駅近等の利便性重視の共働き・子育て世帯等に配慮し、利便性や規模等を総合的にとらえて住宅取得を推進。子供の人数、生活状況等に応じた柔軟な住替えの推進
 ○民間賃貸住宅の計画的な維持修繕等により、良質で長期に使用できる民間賃貸住宅ストックの形成と賃貸住宅市場の整備
 ○防音性や省エネルギー性能、防犯性、保育・教育施設や医療施設等へのアクセスに優れた賃貸住宅の整備

(2) 子育てしやすい居住環境の実現とまちづくり
 ○住宅団地での建替え等における子育て支援施設や公園・緑地等、コワーキングスペースの整備など、職住や職育が近接する環境の整備
 ○地域のまちづくり方針と調和したコンパクトシティの推進と共に、建築協定や景観協定等を活用した良好な住環境や街並み景観の形成等
(成果指標)
 ・民間賃貸住宅のうち、一定の断熱性能を有し遮音対策が講じられた住宅の割合
  約1割(H30)→ 2割(R12)

目標4: 多様な世代が支え合い、高齢者等が健康で安心して暮らせるコミュニティの形成とまちづくり
(1) 高齢者、障害者等が健康で安心して暮らせる住まいの確保
 ○改修、住替え、バリアフリー情報の提供等、高齢期に備えた適切な住まい選びの総合的な相談体制の推進
 ○エレベーターの設置を含むバリアフリー性能やヒートショック対策等の観点を踏まえた良好な温熱環境を備えた住宅の整備、リフォームの促進
 ○高齢者の健康管理や遠隔地からの見守り等のためのIoT技術等を活用したサービスを広く一般に普及
 ○サービス付き高齢者向け住宅等について、地域の需要や医療・介護サービスの提供体制を考慮した地方公共団体の適切な関与を通じての整備・情報開示を推進

(2) 支え合いで多世代が共生する持続可能で豊かなコミュニティの形成とまちづくり
 ○住宅団地での建替え等における医療福祉施設、高齢者支援施設、孤独・孤立対策にも資するコミュニティスペースの整備等、地域で高齢者世帯が暮らしやすい環境の整備
 ○三世代同居や近居、身体・生活状況に応じた円滑な住替え等を推進。家族やひとの支え合いで高齢者が健康で暮らし、多様な世代がつながり交流する、ミクストコミュニティの形成
(成果指標)
 ・高齢者の居住する住宅のうち、一定のバリアフリー性能及び断熱性能を有する住宅の割合
  17%(H30)→ 25%(R12)

目標5:住宅確保要配慮者が安心して暮らせるセーフティネット機能の整備
(1) 住宅確保要配慮者(低額所得者、高齢者、障害者、外国人等)の住まいの確保
 ○住宅セーフティネットの中心的役割を担う公営住宅の計画的な建替え等や、バリアフリー化や長寿命化等のストック改善の推進
 ○緊急的な状況にも対応できるセーフティネット登録住宅の活用を推進。地方公共団体のニーズに応じた家賃低廉化の推進
 ○UR賃貸住宅については、現行制度となる以前からの継続居住者等の居住の安定に配慮し、地域の実情に応じて公営住宅等の住宅セーフティネットの中心的役割を補う機能も果たしてきており、多様な世帯のニーズに応じた賃貸住宅を提供を進めるとともに、ストック再生を推進し、多様な世帯が安心して住み続けられる環境を整備

(2) 福祉政策と一体となった住宅確保要配慮者の入居・生活支援
 ○住宅・福祉部局の一体的・ワンストップ対応による公営住宅・セーフティネット登録住宅や、生活困窮者自立支援、生活保護等に関する生活相談・支援体制の確保
 ○地方公共団体と居住支援協議会等が連携して、孤独・孤立対策の観点も踏まえ、住宅確保要配慮者に対する入居時のマッチング・相談、入居中の見守り・緊急対応等の実施
 ○賃借人の死亡時に残置物を処理できるよう契約条項を普及啓発。多言語の入居手続に関する資料等を内容とするガイドライン等を周知
(成果指標)
 ・居住支援協議会を設立した市区町村の人口カバー率
 25%(R2)→ 50%(R12)

③「住宅ストック・産業」の視点
目標6:脱炭素社会に向けた住宅循環システムの構築と良質な住宅ストックの形成
(1) ライフスタイルに合わせた柔軟な住替えを可能とする既存住宅流通の活性化
 ○基礎的な性能等が確保された既存住宅の情報が購入者に分かりやすく提示される仕組みの改善(安心R住宅、長期優良住宅)を行って購入物件の安心感を高める
 ○これらの性能が確保された既存住宅、紛争処理等の体制が確保された住宅、履歴等の整備された既存住宅等を重視して、既存住宅取得を推進
 ○既存住宅に関する瑕疵保険の充実や紛争処理体制の拡充等により、購入後の安心感を高めるための環境整備を推進

(2) 長寿命化に向けた適切な維持管理・修繕、老朽化マンションの再生(建替え・マンション敷地売却)の円滑化
 ○長期優良住宅の維持保全計画の実施など、住宅の計画的な点検・修繕及び履歴情報の保存を推進
 ○耐震性・省エネルギー性能・バリアフリー性能等を向上させるリフォームや建替えによる、良好な温熱環境を備えた良質な住宅ストックへの更新
 ○マンションの適正管理や老朽化に関する基準の策定等により、マンション管理の適正化や長寿命化、再生の円滑化を推進
(成果指標)
・既存住宅流通及びリフォームの市場規模
 12兆円(H30)→ 14兆円(R12)
・住宅性能に関する情報が明示された住宅の既存住宅流通に占める割合
 15%(R1)→ 50%(R12)

(3) 世代を越えて既存住宅として取引され得るストックの形成
○2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、
・長寿命でライフサイクルCO2排出量が少ない長期優良住宅ストックやZEHストックを拡充
・ライフサイクルでCO2排出量をマイナスにするLCCM住宅の評価と普及を推進
・住宅の省エネルギー基準の義務付けや省エネルギー性能表示に関する規制など更なる規制の強化
○住宅・自動車におけるエネルギーの共有・融通を図るV2H(電気自動車から住宅に電力を供給するシステム)の普及を推進
○炭素貯蔵効果の高い木造住宅等の普及や、CLT(直交集成板)等を活用した中高層住宅等の木造化等により、まちにおける炭素の貯蔵の促進
○住宅事業者の省エネルギー性能向上に係る取組状況の情報を集約し、消費者等に分かりやすく公表する仕組みの構築
(成果指標)
・住宅ストックのエネルギー消費量の削減率(平成25年度比)※
 3%(H30)→ 18%(R12)

※2050年カーボンニュートラルの実現目標からのバックキャスティングの考え方に基づき、規制措置の強化やZEHの普及拡大、既存ストック対策の充実等に関するロードマップを策定
※地球温暖化対策計画及びエネルギー基本計画の見直しに合わせて、上記目標を見直すとともに、住宅ストックにおける省エネルギー基準適合割合及びZEHの供給割合の目標を追加
・認定長期優良住宅のストック数
 113万戸(R1)→ 約250万戸(R12)

目標7:空き家の状況に応じた適切な管理・除却・利活用の一体的推進
(1) 空き家の適切な管理の促進と共に、周辺の居住環境に悪影響を及ぼす空き家の除却
 ○所有者等による適切な管理の促進。周辺の居住環境に悪影響を及ぼす管理不全空き家の除却等や特定空家等に係る対策の強化
 ○地方公共団体と地域団体等が連携し相談体制を強化し、空き家の発生抑制や空き家の荒廃化の未然防止、除却等を推進
 ○所有者不明空き家について、財産管理制度の活用等の取組みを拡大

(2) 立地・管理状況の良好な空き家の多様な利活用の推進
 ○空き家・空き地バンクを活用しつつ、古民家等の空き家の改修・DIY等を進め、セカンドハウスやシェア型住宅等、多様な二地域居住・多地域居住を推進
 ○中心市街地等において、地方創生やコンパクトシティ施策等と一体となって、除却と合わせた敷地整序や、ランドバンクを通じた空き家・空き地の一体的な活用・売却等による総合的な整備を推進
 ○空き家の情報収集や調査研究活動、発信、教育・広報活動を通じて空き家対策を行う民間団体等の取組みを支援
(成果指標)
・市区町村の取組みにより除却等がなされた管理不全空き家数
 9万物件(H27.5~R2.3)→ 20万物件(R3~12)

目標8:居住者の利便性や豊かさを向上させる住生活産業の発展
(1) 地域経済を支える裾野の広い住生活産業の担い手の確保・育成
 ○大工技能者等の担い手の確保・育成について、職業能力開発等とも連携して推進。地域材の利用や伝統的な建築技術の継承、和の住まいを推進
 ○中期的に生産年齢人口が減少する中で、省力化施工、DX等を通じた生産性向上の推進
 ○CLT等の新たな部材を活用した工法等や中高層住宅等の新たな分野における木造技術の普及とこれらを担う設計者の育成等

(2) 新技術の開発や新分野への進出等による生産性向上や海外展開の環境整備を通じた住生活産業の更なる成長
 ○AIによる設計支援やロボットを活用した施工の省力化等、住宅の設計・施工等に係る生産性や安全性の向上に資する新技術開発の促進
 ○住宅の維持管理において、センサーやドローン等を活用した住宅の遠隔化検査等の実施による生産性・安全性の向上
 ○官民一体となって我が国の住生活産業が海外展開しやすい環境の整備

●国土交通省ホームページ
[URL]https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000032.html