平成31年 年頭所感
一般社団法人 全国住宅産業協会
会長 神 山 和 郎
新年を迎え、謹んでご挨拶を申し上げます。
昨年は、地震、集中豪雨、台風による大きな自然災害に見舞われ多くの犠牲者と甚大な被害がもたらされました。被災された方々に心からお見舞いを申し上げるとともに、住宅に関わる事業者として国民の安全・安心を守る使命を再認識しております。
我が国経済は、緩やかな回復基調が続く一方で賃金の伸びが鈍く、住宅、消費を始めGDPの成長率も力強さを欠いており、特に若年層では景気回復を実感するには至っていない状況です。
住宅・不動産市場においては、新設住宅着工戸数はここ数年90万戸台で堅調に推移していますが、建築費の上昇や用地価格の高騰もあり住宅価格は長期にわたり高止まりしており、一次取得者層の購入能力から乖離した価格となっております。さらに、本年10月には消費税率10%への引上げが予定されており、住宅購入への影響が懸念されるところです。当協会は、引上げ前後の駆込み・反動減対策を講じるよう重点的に要望活動を行ってまいりましたが、その結果、住宅ローン減税の控除期間の3年延長、エコ住宅、長持ち住宅、耐震住宅、バリアフリー住宅など一定の性能を有する住宅を対象とする次世代住宅ポイント制度の創設などの措置が新たに講じられることとなりました。これらの制度が消費者に十分に理解され、販売現場で混乱なく適切に運用されることが望まれます。
昨年12月に発表された平成31年度税制改正大綱では、消費税率引上げ対策に加えて、買取再販で扱われる住宅の取得等に係る特例措置の拡充・延長、サービス付き高齢者向け住宅供給促進税制の延長、空き家の発生を抑制するための特例措置の拡充・延長、土地の
所有権移転登記等に係る特例措置の延長などが実現しました。これらの措置は住宅取得者の負担軽減を通じて、住宅・不動産市場の活性化に寄与するものであり、特例の延長実現に関係された方々に感謝申し上げます。
今後は、消費税を含め多くの税が課せられている住宅取得者の負担を今以上に増やさないように検討を行い、恒久的な措置を実現することが最大の課題となります。その際、都心居住の利便性や職住接近を求める若い世代や高齢者世帯に需要があるコンパクトマンションの購入者のために住宅ローン控除などの面積要件を緩和することも重要であると考えます。
国民の住まい方が多様化し、高齢者世帯や単身者世帯等が増加する中で住宅の広さだけでなく、子育て世代が仕事と家庭生活を両立していける環境を備えた住宅、高齢者が安心して老後を送ることができる住宅を供給していくことが求められています。また、省エネルギー化や耐震化、IoT・AIへの対応なども今後ますます必要となってきます。マンション、戸建、賃貸住宅、注文住宅など多様な住宅の供給、仲介、維持管理などを業とする会員が集っている当協会の力をいかんなく発揮すべき時代だと考えます。
既存住宅の活用、流通の活性化については、昨年から宅地建物取引業法に基づく建物状況調査(インスペクション)や安心R住宅の制度運用が始まりましたが、これらの動きを着実に進めていくことが必要です。空き家、所有者不明土地についてもより一層の対策を講じていく必要があります。
現在、全国の分譲マンションストックの総数は644万戸あります。これらのマンションを良好に維持するためには定期的に修繕工事を行う必要がありますが、修繕積立金が十分でないため、一時的に入居者に過度な負担を求めたり、必要な工事が行われない事例が見受けられます。適切な修繕を行いマンションの資産価値を維持するためにも修繕積立金のあり方について居住者の立場に立った検討が必要です。
また、これらのマンションは年々老朽化が進行します。建築後50年超の分譲マンションは現在の5.3万戸から10年後には72.9万戸、20年後には184.9万戸に増加することが見込まれ、マンションの建替えが現実問題として顕在化してきます。マンションの建替えの促進には、容積率の特例制度(ボーナス)の創設やリバースモーゲージの普及、マンション建替えに係る関係法令の見直しなどが不可欠となりますので、今後、本格的な検討をお願いしたいと思います。
本年も引き続き全国1,700社を超える会員の英知と熱意を結集し、国民の豊かな住生活の実現と住宅・不動産業の発展を通じ日本経済の発展に寄与してまいりますので、会員並びに関係の皆様方の倍旧のご支援とご協力をお願い申し上げます。
最後になりましたが、皆様方のますますのご発展とご健勝を祈念申し上げまして、新年のご挨拶とさせていただきます。